日教組 政策制度要求と提言 発刊にあたって

 教育は、「人格の完成」をめざすことを目的に行われなければなりません。しかし今、教育は国際競争に打ち勝つ「人材育成」に重点が置かれています。子どもたちにはそのための「資質・能力」を身につけることが求められています。 悉皆による「全国学力・学習状況調査」に加え、「英語調査」や「高校生のための学びの基礎診断」など序列化・競争を煽る政策が継続・強化されています。学校現場では、「学力向上」の名のもと、点数向上に特化した対策が求められ、子どもの学ぶ楽しさや学び合いなど「ゆたかな学び」が阻害されています。また、「特別の教科 道徳」の導入により、規範意識や徳目の修得が重視され、子どもの内心の自由を脅かすことが懸念されます。こうした競争主義的・新自由主義的な教育統制が強まる中、教職員も教育の自由が奪われ、長時間労働が常態化・深刻化しており、学校現場は疲弊しています。

 所得格差が教育格差につながる子どもの貧困、貧困の連鎖は依然として深刻な状況にあります。厚労省が公表(6月)した2016年度「国民生活基礎調査」では、子どもの貧困率が13.9%(7人に1人が「貧困」状態)、ひとり親世帯の貧困率は50%を超えています。子どもの学ぶ権利が脅かされており、就学支援制度や給付型奨学金の拡充など具体的対策が求められます。教育を社会全体で支えていく政策の実現が重要となります。

 いわゆる「共謀罪」の成立強行、憲法「改正」論議など、平和・人権を脅かす政治状況の中、今回で第9集となる日教組「政策制度要求と提言」(2017〜 2018年度版)を発刊しました。広く社会的対話の手段として活用されることをめざしています。教育は誰でも経験の中で語ることができます。教育に対する価値観も考え方も千差万別で、子どもの多様な価値観を認めることが何より大切です。子ども・学校現場の実態や国際的なデータ分析など図表化や重点化をはかり、政策の各論を簡潔に提言することにつとめました。私たちの「要求と提言」が広くPTA・教育行政など教育関係者や、国会議員・自治体議員の皆さんにご覧いただければ幸いです。

 日教組は、子どもに寄り添い、学校現場からの教育改革がアイデンティティであり、すべての子どもにゆたかな学びと育ちを保障する「教育福祉(Edufare)」社会の実現をめざしています。

 憲法施行・日教組結成70年の節目の年を機に、憲法・子どもの権利条約の理念のもと、子ども・学校現場の実態など市民感覚を意識した身近な教育課題から、保護者・地域住民・働く仲間など広範な市民との社会的対話をさらにすすめていきます。

2017年8月
日教組「政策制度要求と提言」作成委員会



教育をめぐる情勢と課題重点政策 子どもの育ちと学ぶ機会を保障する教育
重点政策 子どものゆたかな学びを保障する教育重点政策 子どものいのち・人権を守る教育
重点政策 子どもを中心にすえたカリキュラム編成重点政策 子どものゆたかな学びを保障する行財政
重点政策 重点政策 子どもの健康・安全と教育環境の充実重点政策 教職員が安心とゆとりをもって働き続けられる労働条件の整備


【政策各論】
1.子どもの育ちと学ぶ機会を保障する教育3)学校現場を支援する教育行政
1)子どもの学習権を保障し、学びの共同体としての学校改革6.子どもの健康・安全と教育環境の充実
2)幼保-元化の実現と就学前教育の保障1)子どもの健康・安全
3)特別支援教育からインクルーシブ教育へ2)教育環境の充実
4)学校段階間の連携・接続7.自主性、自律性を発揮した学校運営組織の構築
5)高校入試改革1)学校運営組織と校務分掌の見直し
2)「自己評価」を基本とした学校評価システム
2.子どものゆたかな学びを保障する教育8.教職員が安心とゆとりをもって働き続けられる労働条件の整備
1)カリキュラムと学力調査のあり方1)労働基本権と公務員制度改革
2)カリキュラム改革2)「指導が不適切な教員」の人事問題
3)「主権者」教育3)教職員の給与制度
4)普通職業教育・労働教育4)超過勤務の解消
5)ものづくり教育5)労働安全衛生体制の確立と教職員の健康権の確立
6)環境教育、防災・滅災教育6)雇用分野における男女平等
7)教育の情報化7)高齢雇用・雇用と年金の接続
8)メディアリテラシー教育8)臨時・非常勤教職員等の処遇改善と雇用安定
9)生涯スポーツの振興9)幼稚園.認定こども園教職員
10)ボランティア活動など社会奉仕体験活動10)事務職員
11)教員の養成・採用・研修の改善11)養護教員
12)教科書検定・採択制度の改善12)現業職員
13)栄養教職員
3.子どものいのち・人権を守る教育14)実習教員
1)子どもを主体とする教育改革15)学校図書館職員
2)人権教育の充実16)寄宿舎教員
4.後期中等教育・高等教育の改革と政策9.男女平等
1)後期中等教育の機会均等1)政策決定過程への女性の参画
2)地域にねさしたゆたかは後期中等教育2)男女の自立・平等・共生の教育
3)若年者への就労支援3)ジエンダーの視点に立った社会制度・慣行の見直し
4)定時制・通信制教育の条件整備10.平和、人権、環境、共生
子どもを中心にすえたカリキュラム編成1)憲法理念の実現
5)高等教育改革2)平和・人権政策
6)私学教育の振興3)環境・エネルギー政策
5.子どものゆたかな学びを保障する行財政4)共生社会の実現
1)教育財源の確保(義務教育)11.国際連帯
2)教育財源の確保(後期中等教育)1)国際連帯

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